高淡き光立つにわか雨、いとし面影の沈丁花。あふるる涙の蕾から、ひとつひとつ香り始めたのはつい先日だったはずである。遠き春はあっという間に花粉で苦しむだけで終わり、もう夏であった。キックオフ時の気温、30度とはどうなっているのか。
実に不快な気温が、我々に活路を見出す。相手チームのFC KTRは11人ギリギリであり、我々は14人と必ず3人は休憩の取れる陣容であったからだ。死せる孔明は生ける仲達を走らせるが、体力のほぼほぼ死にかけた我々は何とか最初相手を走り回さんとする作戦に出る。
今回初対戦となるFC KTRは昨年まで伊奈町リーグに所属し、Jリーグを頂点とするピラミッドにその名を刻んだ由緒あるチームである。ピラミッドのかけらにもなれず、ピラミッドの足元の大都市ギザの下水管にたまる汚泥に過ぎない我々にとって、胸を貸していただく形となる。
走り回らせる作戦は頓挫した。相手はやみくもに攻撃に人数を探す、後半の体力の枯渇を防ぐために、秩序あるプレーを試みる。我々は基本的には攻勢に見えるが、死せる孔明、生ける仲達を走らせるを実践するのは相手であった。そして7分に右サイドを突破されると、ディフェンスラインが引っ張られ、フリーとなった相手10番に先制点を入れられる。
しかし、30度という気温は確実に格上の相手の体力を蝕んだ。2本目のキックオフ直後、最終ラインの井上から鋭いスルーパスが前線に入ると、相手ディフェンスダーは対応できず、瀧が同点ゴールを決めるのであった。ここからはほぼ我々ペース。
33分、相手のコントロールミスからハンドを奪う。倉片のFKは枠を捉える。相手ゴールキーパーが弾いたボールを勝山が滑り込んで逆転。さらに37分には2点目よりやや遠目から倉片が再びFKを蹴ると、瀧がエリア内でトラップで相手を交わすと、ドッピエッタとなるゴールを決める。3-1。
その後、サイドバックの尾久や早坂にもシュートチャンスがあるなど、完全に試合を支配した気でいた。相手の足が止まりらあともう何点か取っての快勝だろう。ところが、基礎体力のなさでは相手を圧倒的に凌駕しているがゆえに、いくら人数が多かろうと我々の足も止まるのである。53分に失点すると、4本目はボールが我々の手を離れ、相手が掌中に収めるのである。一打出れば同点のピンチを幾重にも作られ、本来なら4本目は休憩で主審をしていた守護神菅田を緊急登板することとなった。守護神投入で、決壊を何とか防ぐ。1点差の辛勝であった。